中小企業がするM&A売却のメリット・デメリットとは
近年は後継者不足などが社会的な課題にもなっており、中小企業でもM&Aを検討する例が増えています。
ただしその選択が中小企業にとって最適かどうかは、各社の状況によって異なります。
そこで中小企業特有の視点からM&Aのメリットとデメリットを理解しておくことが重要で、当記事でもこの点について言及しています。
中小企業にとってのメリット
中小企業がM&A売却を行うと、後継者問題の解決や事業拡大のチャンス、経営者の引退資金確保など、さまざまなメリットがあります。
特に経営資源の限られた中小企業にとって、M&A売却は新たな可能性を開く手段といえるでしょう。
事業の継続や従業員の雇用維持
多くの中小企業経営者が直面する大きな問題が「会社の後継ぎ」です。
後継者問題について悩んできる企業でも、M&Aを選択することで、次のような形で事業を続けることができます。
- 会社がなくならず長年築いてきた事業が継続できる。
- 長年勤めてきた従業員たちの雇用が維持され、培ってきたスキルや経験を活かし続けることができる。
- 顧客・取引先との関係が途切れない。
- 地域での雇用や経済活動が維持される。
これらのメリットは、特に創業者が高齢化し家族内に後継者がいない中小企業にとって大きな意味を持つことでしょう。
会社の成長につながる資金や技術の獲得
M&Aにより経営資源が得られ、新たな成長の機会を得ることもできます。
獲得できる経営資源 | 中小企業にとっての利点 |
---|---|
資金 | 設備投資や事業拡大ができる。金融機関からの借入だけでは実現が難しかった規模の投資が可能になり、工場の拡張や最新設備の導入なども期待できる。 |
販売ルート | 新しい顧客の開拓ができる。買い手企業が持つ販売網を活用することで、これまでアプローチできなかった大手企業や地域、業界への販路の広がりが期待できる。 |
技術やノウハウ | 商品・サービスの質が向上する。買収企業が持つ特許技術や製造ノウハウ、品質管理システムなどを取り入れることで、製品の競争力や付加価値の向上が期待できる。 |
人材 | 専門知識を持つ人材が増える。自社だけでは採用が難しかったIT人材、専門技術者などの確保により、新たな事業展開も期待できる。 |
これらの経営資源を獲得することで、中小企業単独では達成できなかった事業規模の拡大や新分野への挑戦が実現できるようになるかもしれません。
経営者自身の将来に備えられる
自社株式が経営者の個人資産の多くを占めているケースも、中小企業では珍しくありません。
このような状況下においてM&A売却を行えば、自社株式が現金化され、経営者の引退後の生活資金を確保することにもつながります。
また、経営者個人が負っていた借入の個人保証から解放される可能性もあります。
中小企業にとってのデメリット
M&A売却にはさまざまなメリットがある一方、注意すべき点もいくつかあります。以下の点を踏まえ、検討を進めるようにしてください。
従来の自由度が失われる
これまで経営者が自分の判断で自由に素早く決断できていたことが、売却後は買い手企業のルールや方針に従う必要が出てきます。
その結果、従来の自由度が失われ、「意思決定のスピードが遅くなる」「長年培ってきた会社の文化や方針が変わる」「取引先や顧客との関係性が変化する」などの影響が出ることも考えられます。
これらは常にデメリットとなるわけではありませんが、従来のやり方にこだわりを持っていた方は留意しておきたいポイントです。
従業員からの反発
M&Aによる売却は、従業員の働き方や生活にも大きな変化をもたらし、その結果さまざまな問題を引き起こすおそれもあります。
たとえば将来への不安から退職を選ぶケースもあるでしょう。この人材の流出は企業価値の低下につながります。
また、給与体系や評価制度の変更により、長年働いてきたベテラン社員が不利になるケースも起こり得ます。
企業文化の違いからストレスを感じることもあるかもしれません。
そのため従業員の退職やモチベーション低下を防ぐ方法も併せて検討していかなくてはなりません。
新たな環境に馴染むのに1,2年程度はかかるものと覚悟し、はじめは生産性が下がる可能性があることも考慮しておくべきでしょう。
コストや手間が大きい
M&Aで利益を得られることもありますが、その過程では大きなコストや労力が発生します。
以下のようなコストや手間があることを踏まえて計画的に進めなくてはなりません。
かかるコスト・労力 | 具体的な内容 |
---|---|
売却前の準備 | 過去数年分の財務諸表の精査や不動産・機械設備などの資産評価、知的財産権の整理が必要になる。 |
専門家への報酬 | M&A仲介会社、弁護士、会計士等の専門家への費用が発生する。仲介手数料は売却金額に対応して定まることが多い。 |
税金の負担 | 売却益に対して税金がかかる可能性がある。中小企業のするM&Aであれば税制上の優遇措置が使える可能性もあるため、専門業者や専門家に相談することが推奨される。 |
時間と労力 | M&Aの交渉に半年から1年以上かかることも珍しくない。その間、経営陣は資料作成や交渉に多くの時間を取られ、本業がおろそかになるリスクがある。 |
デューデリジェンス対応 | 買収側による詳細な調査への対応が求められる。財務・法務・人事・ITなど、多方面にわたる調査に社内リソースを割く必要がある。 |
これらの負担を事前に把握しておかないと本業の業績悪化につながる危険性があります。
M&A売却を成功させるポイント
M&A売却を成功させるには、上記のメリットが大きくなるようにするとともに、デメリットの影響を最小限にとどめることが重要です。
そのためにも、事前の準備と適切なタイミングでの着手が重要といえます。
売却価格を最大化し、交渉をスムーズに進めるためには、財務情報の整理や専門家の活用、そして何より自社の強みを明確にしておくことが欠かせません。また、売却後の経営体制や従業員への配慮も長期的な視点から見た成功のカギとなるでしょう。
メリットが大きくなりやすい企業の特徴
M&A売却のメリットを大きく享受できる企業には、いくつかの共通点があります。
1つは「明確な強みや専門性を持っている企業」です。
独自の技術やノウハウ、顧客基盤を持つ企業は、買い手にとって高い価値があるため、有利な条件で売却できる可能性が高まります。
次に「業績が安定しており、将来性のある市場に属している企業」もM&A売却のメリットを得やすいといえます。
後継者問題を抱えていても、財務基盤がしっかりしていれば買い手企業から高い評価を得られるでしょう。
そして「従業員との関係性が良好で社内の雰囲気が健全な企業」であることも重要です。
チームワークが取れていると統合後のリスクが少ないと判断されやすく、スムーズな売却が期待できます。
デメリットの方が大きくなりやすい企業の特徴
デメリットの方が大きくなりやすい企業の特徴もあります。
1つは「経営者個人への依存度が高すぎる企業」です。
創業者の個人的な人脈に頼った経営をしている場合、経営者が離れた後の企業価値の維持が難しくなります。
次に「財務状況が不安定で業績の変動が激しい企業」も挙げられます。
買い手企業は将来性あるいは安定性を重視するため、このような特徴があると買収リスクが高い評価されます。
赤字が続いている企業はもちろん、特定の取引先への依存度が極端に高い状態にあると売却条件が厳しくなってしまいます。
そして「企業文化が特殊で柔軟性に欠ける企業」もデメリットが大きくなりやすいです。
独自のやり方に固執する企業文化がある場合、M&A後の統合がうまくいかず、優秀な人材の流出や生産性を大きく低下させるおそれがあります。
M&Aの注目度は上がっており、中小企業にとっても今後重要な選択肢となってくるでしょう。ただし安易に決断してはいけません。
ここで紹介したようなメリットやデメリットを認識のうえ「自社にとってはM&Aが合っている」と判断した場合に着手すべきでしょう。
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M&Aとは
「M&A」と言われても、まだまだ一般的にはよく知られていないのではないでしょうか?テレビや新聞の経済ニュースでは頻繁に目にするようにはなりましたが、まだまだ何のことやらわからない方が多いかと思います。
あるいは言葉の意味は人から聞いたり、本やネット等でなんとなく知っているが、具体的にどういうことなのか知らない人が多数かと思います。それも当然のことです。なぜなら、金融機関やM&Aを手掛けるコンサルティング会社以外の事業会社にとっては、M&Aというのは企業にとっての一大イベントでありますし、むしろほとんどの企業は全く縁のないことも多いからです。したがって、M&Aが一般的に知られるはずもないのです。
そこで、M&Aとは何なのか、またM&Aにはどのような手法があり、具体的にどのようなことなのかを、わかりやすくご説明したいと思います。
M&Aの正式な名称は「Mergers and Acquisitions」であり、M&Aとはこれを略した言葉です。Mergersというのは「合併」、Acquisitionsというのが「買収」のことであり、直訳すると「企業の合併と買収」となります。
一般的に「M&A」と言うと、二つ以上の会社を一つの会社としてくっつける、専門的に言うと複数の法人格を一つの法人格に結合する合併およびある会社の全株式を買い取ってしまう買収といった狭義のM&Aだけでなく、ある企業の特定の事業だけを譲渡する営業譲渡や、資本提携(100%ではない株式の取得・増資の引受)なども含めた、広義の資本的取引のことを包括しています。
MERIT&DEMERIT
M&Aのメリット・デメリット
売り手のメリット・デメリット
1. 従業員の確保
現在、日本の中小企業においては後継者不在により、いつまで事業が続けられるか悩んでいる中小企業経営者が多いです。後継者不在が続いた場合、廃業に追い込まれる企業も少なくないでしょう。そうなってしまうと、従業員やその家族、取引先に大きな影響を及ぼしてしまいます。こうした中小企業がM&Aを行うことで、会社を存続させることができ、ひいては従業員の雇用を守ることができます。
また、M&Aの相手先によっては、その会社のネットワークやノウハウを利用することで、再スタートを切ることができるので、後継者不在に悩んでいる中小企業にとっては、きわめて有効かつ迅速な解決を図るための選択肢となります。
2. 企業体質の強化につながる
M&Aを実行しようという買い手会社は、売り手会社に比べると、資金力、人材などの事業基盤の面で安定した企業となります。
M&Aで事業基盤のしっかりした企業との確固とした関係を築くことができれば、今まで不足していた信用力が補完され、資金調達が楽になることもありますし、また相手先のネットワークを利用することで販路を拡大することができるなど、いわゆる事業シナジーの活用ができ、収益力の強化につながることが期待できます。
3. 売り手の経済的メリット
たとえば後継者が不在のため、自社を廃業・清算する場合、現金や有価証券といった金融資産以外の資産である在庫や機械設備などは換金することが困難なばかりか、往々にして処分費用が嵩み、会社をたたむのに残金が残るどころか、追加での費用の支払いが出てしまう可能性も高いものです。
しかしながら、M&Aを実行する企業にとっては、そういった在庫や機械設備は今後の事業遂行にとって価値となる資産となるばかりか、場合によっては収益力を評価していわゆるのれん価値をつけて株式を買い取ってくれることがあります。
この場合、廃業・清算にかかる手間が、M&Aで軽減されるばかりか、場合によっては手元に残る現金が多くなることもあり、引退後の生活のために大きなメリットとなることでしょう。
もし詳細がお聞きになりたい方は、当社まで、ぜひお問い合わせください。

買い手側のメリット・デメリット
1. 既存事業の拡大や事業の多角化ができる
経済が成熟してくると、既存事業における市場規模の拡大というのは自然には見込めなくなるものです。したがって、自社の事業領域においては、他社の市場シェアを奪うほか売上の拡大が見込めなくなってきますが、これは簡単な話ではありません。
そこで自社の経営戦略やニーズにマッチした企業とのM&Aを実行することによって、自社の事業規模を拡大し、市場シェアを一気に拡大することが可能となります。
また、自社の既存事業の売上が伸び悩んでいる場合は、他の領域への進出、すなわち事業の多角化、新地域への進出という事業戦略を取ることが多いかと思います。しかしながら、ノウハウがない事業に新規に進出する場合は、よほどの事業シナジーがない限り、失敗のリスクが高くなります。そこで、すでにある他業界の会社をM&Aすることで、対象企業の事業ノウハウばかりかすでに獲得しているマーケット・シェアを獲得することができるというメリットがあります。

2. 時間を買うことができる
M&Aを実行することは、自社で一から経営資源である「ヒト・モノ・カネ」を投入して、新しい事業を立ち上げる時間を省くことができ、お金で「時間を買う」ことができるわけです。
3. 失敗のリスクを軽減できる
一般的に自社の既存事業の売上が伸び悩んでいる場合は、他の領域への進出、すなわち事業の多角化、新地域への進出という事業戦略を取ることが多いかと思います。しかしながら、ノウハウがない事業に新規に進出する場合は、よほどの事業シナジーがない限り、失敗のリスクが高くなります。
そこで、すでにある他業界の会社をM&Aすることで、対象企業の事業ノウハウばかりかすでに獲得しているマーケット・シェアを獲得することが できるというメリットがあります。
OFFICE
会社情報
当社は、会計士および税理士のネットワークをベースに設立された会社です。
これまで、多数のM&Aの経験に裏付けられた専門的ノウハウおよびネットワークを元に顧客企業にとって最適なM&Aを実現することが使命であります。
具体的なサービスとして、最も重要なものは、事業承継及び企業規模の拡大を目指している経営者様にとって、最も効果的なM&Aの相手先を見つけ、ご紹介する仲介業務であります。M&A仲介の難しい点は、なんといっても「相手先企業情報の入手及び両者のマッチング」です。
この仲介業務、すなわち出会いがすべてといっても過言ではありません。他社では、どうしても成約ばかりに目を向けて、成約するならどこでもいい、といったことがありますが、当社はこの仲介業務にもっとも力を入れ、またこの仲介において皆様の事業の発展に尽くしていきたいと考えております。
会社名 | 株式会社日本企業評価会計事務所(旧M&Aプロ株式会社) |
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設立 | 平成28年10月5日 |
事業内容 | 企業買収および合併の仲介業務など |
住所 | 〒102-0093 東京都千代田区平河町2-8-10 宮川ビル4階 |
代表取締役 | 近 暁 |